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マックスは私を嚙まなかった。
いつもの可愛らしい瞳で、後ろ足で立ち上がった姿はどんどん大きくなって、私の家の廊下を破壊した——。
「マックス!!!」
見上げるほどに巨大化した緑目の黒ウサギ……——。
「幸子ちゃん!!!」
SPのサクラさんが——
「止めてっ!!!!」
私の叫びなんて……誰も聞き届けない——
無残に壁に打ち付けられたサクラさんに駆け寄るのを、マックスの前足が遮った!
「さ……ちこちゃん……っ逃げて!!!」
ふわふわな……マックスのふわふわな前足は私を傷つけなかった——
「マックス!どいて!!……やめて!!!」
サクラさんが跳ね飛ばされる!!!
「やめて!!!!!!!!」
サクラさんのデリンジャーがマックスの爪を狙う!
「逃げなさい!!!」
私はマックスが開けた大穴から外に飛び出した。
でもどこに……逃げればいいの……?
マックスは私を追って来た。
愉しむように、街を壊しながら。
……もう……無理。
歌舞伎町の小さな公園の茂みに、私は身を潜めた。
……疲れた。
人々の、悲鳴が聞こえる——。
私は、自分の心拍数が、どこか遠いものに思っていた……。
「なんで……」
……息は……ちゃんとしてる。
「疲れたよ……」
——私が目を覚ました時、……全ては終わっていた。




