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「いつも見てたでしょう?」
ブリーダーショップのお姉さんは、雪姉と由姉に挟まれた私に、あのこをくれた。
「えっ……」
緑目のあのこは、私の不器用な両腕の中で、居場所をつくるように、もぞもぞと動いてわき腹と腕の間に顔を埋めた。
いつものように嫌々ながら付いて来た姉たちの髪が、ブル―グレイの風に揺れている。
ブリーダーショップの前の小さな大通りにはタクシーとか、白や銀色の車が行きかっていて、ブリーダーショップの入口には、チビ丸が眠そうに空を見上げている。
「なんか、どの人にも懐かなくって……可愛いこなんだけど」
ベルベットのような黒いつやつやの毛並みが、まんまるのフォルムで、すぅすぅと上下している。
「あなたのこと好きみたいだから、連れてってくれない?」
「いやっでも契約とか……」
雪姉が慌てて断ろうとするけど、由子は嬉しそうに見える。
「連れて……帰ります」
私の心は決まってしまっていた。
私の腕の中で息をしてる黒いこのこ。
どういうふうに守れるのか、わからないとしても。
「いいのいいの。合う人と一緒にいてくれたら、私たちも嬉しいから」
「……可愛がれるの?」
雪姉の問いに、私の迷いは無かった。深呼吸して、大きく頷く。
私はこのこに名前をつけた。
その名前は——




