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「幸子、行くわよ」
私は動かなかった。
昨日、お姉とケンカしたし、言うことを聞きたくなかった。
「はぁぁ……ほんと嫌」
すぐため息をつく由姉も嫌い。いつも、すっごい冷たい。
お姉も由姉もキレイだけど、それだけじゃ私のココロは動かせない。
ぜったいここから動かない。
大通りに面したブリーダーハウスには、アメショの可愛い猫ちゃん。マルチーズのワンちゃん。セントバーナードのチビ丸が居た。
チビ丸はハウスの看板犬で、ハウス内を自由に行き来している。
私は寂しくなると、お姉についてきてもらって、いつもこのハウスに来ていた。
それから私が一番気になっているのは、芝生風のサークルでうつらうつらと眠る、うさぎたち。
白ちゃん、三毛ちゃん、たれ耳ちゃん、そのこたちからいつも少し離れた場所で眠る、緑目の黒ウサギ。
私はそのこがいつも気になっていた。
他のこが大きくなっていくなか、そのこはなぜか小さいままで、ときどき後ろ足をふんばってぐ、っと立ち上がるだけで、あとはいつも静かに何かを見つめていた。
エメラルドグリーンのビー玉みたいな瞳……。
「どうして、いつもひとりなの?」
いじわるな質問だったかもしれない。
けれどそのこは、私の指に、そっと耳を押し付けたのだ……。




