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「知らなかった、幸子って色んな声だせるんだね」
新年の熱冷ましに、空き地でブランコに乗る。
木造アパートの部屋はぴかぴか光っていて、皆んなの笑い声がまだ、聴こえてきていた。
「まぁね、沢山練習したからさ。声を紡ぐことだけはね」
「紡ぐ?執筆みたいだね」
アタシはブランコを大きく漕いだ。
冬の冷たい風が、アタシの耳の後ろにスッキリと通り抜けていく。
「……そ☆物語を作るみたいにね。ストーリーとか、気持ちがないと、駄目なんだ。……たぶんね。っほい!」
幸子は運動神経がいい。
揺れたブランコから灰色の土の上に綺麗に着地して、夜の色が降りかかったミルクティーのツインテールをくるりと靡かせた。
「アタシは……ハピたんの声がスキだけど。モノマネも似てたけどさ」
重力に任せて止まりゆく青い板の上で、ちょっと目を伏せる。
飛び出せないアタシは、ちょっともどかしい。
「んー☆知ってる!!!☆☆☆」
へへっ、と笑って、幸子はアタシの髪をぐい、っとひっぱった。
「痛っ!」
「そろそろ戻ろ!寒いし☆☆☆」
新年の晴天は終わって、新しい暮らしが始まる。
「いーけど、なんか歌ってよ……」
「エ?☆もーしょうがないなぁ……」
アタシの好きな、温かい葉脈みたいな……声。
風が、いつまでも耳の後ろを通り抜けていた。




