444.5 手記16
「ふんふ、ふ~ん。ふんふ、ふ~ん」
不謹慎というのかもしれない。
「ふんふ、ふ〜ん、ふん、ふ〜ん……」
俺の心は踊っていた。
サングラスの向こうに、遥か向こうに、特務機関の粋を結した、ブレイズレイダーが見える。
赤い機体。
俺が乗ったら、何色になるのか……。
「三島、準備はいいか」
サングラスの通信機能が、拓海の声を拾う。
「あぁ、もちろん。楽しみなくらいだよ」
「……死ぬな。常に、離脱ボタンから手を離すな」
潰れそうな声。
逆の立場だったら、俺も同じだったと思う。
この立場で居られることが、不謹慎にも楽だった。
「……ごめん。真剣にやる」
俺が最初に所属していた、国家警察の白ジャケットを搭乗用に加工したスーツ。
不思議なくらいに体に馴染んでいたけど、それは背中を押してくれた人たちの努力の結晶だ。
突然、鼓動が高鳴る。
歩む速度が、何かの力によって滞ってしまいそうになる。
息が、止まりそうになるのを無理やりに吐き出す。
「はぁああああ」
「三島、ワープインシステムが、まだ不確実だ。コックピットをicomで顕現させるから乗り込んでくれ」
「ラジャーベース」
ブレイズレイダーの足元に、碧く発光するコックピットが現れる。
(恰好いいじゃん)
再び、踊るような心が現れる。
何度も、シミュレーションした。ミスケースは、限りなく0%に近い。
死にそうな恐怖も、自分自身で鼓舞するしかない。
特務機関の仲間のために……仁花のために。それから、……んーとまぁ、自分がカッコよくいるために?
「三島、今からでも……」
深呼吸をする。
「大丈夫!拓海、始めてくれ」




