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「おかえりー姉」
シュウジとはトレーニングや搭乗で会ってるけど、家で会うのは久しぶりでなんだかちょっと恥ずかしくて、だけどなぜか、気が抜けてしまう。
「おかえり、ミカ☆」
なんかちょっと、母と幸子が重なる。
……相変わらず元気だ。
「おしるこ食べるでしょ?」
「食べる。もちは三つ」
「OK!」
四畳半と六畳に、レトロなペンダントライトが揺れる風景を確かめるようにゆっくりと歩きながら、アタシはダッフルコートをライティングデスクのフックに引っかけた。
楓がずっとついてきてくれて、アタシは長く留守にしてしまったことに少し罪悪感を感じる。
「手、洗ってきちゃいなよ。豚汁も飲む?」
「え!」
甘いとしょっぱい……なしではない。
「豚汁は後でいただくよ」
まずはおしるこでお腹を暖めたい。
丁寧に手を洗って、むかしよりもしっかりした手になってきたことに、ちょっと気づく。
たぶん、アタシは今はもやしではない。
まだまだ足りないことが沢山あったけど……。
でも新しい年の流れる水は、不思議とそんな気持ちを洗い流してくれる気がした。
少し、冷たいけれど、それがかえって心を洗ってくれた。
きゅっ、と蛇口をしっかりと閉じて、鏡を見る。
黒い瞳に黒いおさげ。
「よしっ」
ひとまず、おしるこを堪能しよう。




