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「ライさん、結局アレはなんなのでしょうね……」
リエナと雨沢が帰った後も仕事があった。俺は今でも、小松のほうが艦長に相応しいと思っている。
「お前は、なんだと思う?」
意味の無い質問だ。
俺の時間稼ぎのための……
「人類の祝砲……さしずめ、ユートレス、といったところでしょうか」
意外に思って、思考が止まる。
「ユ、ユートレス?」
真面目だと思っていた小松が、雨沢みたいなことを言いやがる。
「あはっそういう意味じゃなかったですよね」
ふいに見せる笑顔が、胸をざわつかせる。
しかしそれはすぐに夢だと覚める。
「帰らなくていいのか」
「うちの人ですか?分かってくれてます」
慈愛に満ちた、伏せた瞳は遠い母も思わせた。
小松が居ないと、成り立たない日々が続いている。
今は変わった、機関の……——悪しき風習が蘇るんじゃないかと、胸がざわつく。
「もう帰れ」
「……駄目ですよ。明日までに、エンペラーの動力高炉をリカバリーしないと」
「消える時は消える」
小松が、驚いたように見上げた。
「……分かってます。……それでも、動ける時は動かないと」
それも違いない。動ける時に、動かなければ、人は簡単に動けなくなってしまう。
この俺のように……
「大丈夫ですよ、なんとかなります」
その言葉に、縋るしかない。




