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「あんまり心配しなくてもいいんじゃない?」
シュウジに言われた声が、月基地の灰色の通路に響く。
新調した猫柄の半纏の綿はふかふかで、ひんやりとした空気を優しく拒んで、歩いていると温かくなる。
「シュウジのほうが心配してたよ。あの事件のあと」
そう言ったアタシに、シュウジは違うと首を振ったのだ。
「僕は全然心配してないよ。ただ宗ちゃんに会えなくなって寂しかっただけ」
時々、弟のそういう真っ直ぐな瞳に、羨ましさを覚えてくらくらする。
……アタシもそうだよ。
結局そう。寂しかったんだ。
なんのかんの言って、アタシは大切な人に、必要とされたいんだと思う。
理解できたつもりになって、でも本当はそうじゃないことが怖くて、中身を見せてくれないことに、要らない。……って、言われてる気になって……。
そんなふうに思われてないって期待して、自分が安心したいだけなのかも、なんて思うと足が止まってしまう。
「忙しい……かもな……」
コズミナルエンペラーは、完成体ではないらしくて、宗ちゃんとライさんは試験と改修を繰り返していた。
でも……
「アタシができること、本当に無いのかな……」
エゴってやつかもしれないよ。でもさ……。
応えなんて、ないかもしれないけれど——。




