420.5 手記14
「できたケド……」
透き通った蒼い、亜空間倉庫でダルそうに煙草を吸う拓海の言葉を俺は待った。
エリアB総出のブレイズレイダー落成式にも来ず、その後の宴会にも来ず、関連部の片付けにも来ず、翌日、無理やりに引っ張って来て、俺と拓海の研究成果の結晶を見せているわけだけど……
「…………フゥ」
「いや、なんか言ってよ!w」
拓海は煙草を放り投げて、倉庫の蒼い床に寝転んだ。
エリアBの亜空間倉庫も、メカニックルームも、消煙と消臭機能が追備されていたのは拓海のためだったのに、とうとう拓海は、レイダー施工の現場に一度も来なかった。
真紅の人型……というか、どこか猫を思わせる三角の瞳の二足歩行型巨大ロボット。
搭乗者に依って、その色を変える。
搭乗予定者は俺——。
その色は、何色になるのだろうか……
「グレーだ」
「えっ」
俺はドキッとして、拓海を見下ろした。
拓海に俺の瞳の色を見せたことがない。……起きてる間は。
「な、何が?」
興味がある筈が無い。知られる筈が無い。
俺はサングラスがしっかりと耳に掛かっていることを確認して、拓海の隣に座った。
「……こいつが動くかどうかだ」
「あ、あぁ、テスト試乗が上手くいくかってこと?」
無人では、水素エネルギーを充足させて、核ピットのセットアップは完璧だった。
データ上の試験も完璧だ。
……でも、机上で上手くいったことが、実際には上手くいかないこともある。
「グレー、か……」
——私、灰色が大好きよ!
仁花の言葉が甦る。
「でもやってみないと。どっちに転ぶかはわからないし」
俺は、人と違う灰色の目が好きじゃなかったけど、それを好きだという仁花が好きだった。
新しいエネルギー循環システムも、強化シリコンの安全性も、問題が起こらないとは言えないからこそ、もしもの場合には拓海や小松さん、リエナさんの存続が必要になると思った。
……失敗することなんて、考えたく無い。
けど、これが一番いい選択だと信じて、俺が乗ることを強く望んだ。
初号機搭乗者なんてカッコいいしね!
「遺書とか、書かないよ、俺は。怖くも無いし」
それは本当だった。
仁花が計画して、拓海と俺と、エリアBのみんなで造った希望に。
拓海もグレーが好きなんじゃない?なんて、聞かなくてもそう思った。
「試乗には行く」
拓海はそう言って起き上がった。
「うん。ありがとう」
どこまで進んでも、俺はグレーのままかもしれない。
けど、どちらにも進むことの出来る未来を、愛したい。
そう思ってもいい気がした。




