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「本当に大丈夫なのか……?」
「大丈夫だって」
忘れられたエリアZに未練がましく訪れてしまう俺が、忘れられた存在のように、神の瞳に映らない。
お前は、頼りない足場の上で、ひたすら忘れられた珊瑚に向き合っていた。
「もう来るなよ、ライ」
こちらも見ずに、神はそう言った。
神は、俺の部屋にも、二課の研究室にも、訪れなかった。
ただ、忘れられた冬の海の上で、波の花を纏い、黙々と手を動かしていた。
「——俺と……奴だけでもう大丈夫なんだ。帰れよ、ライ」
「奴なんて……」
——盗聴されてるんだろ?
俺と神のチャネルは繋がったままだったが、神の心までは分からなかった。
——されてるけど、奴が誰かまでは俺は言ってないよ、ライ。
どうとでもなる。
お前はいつも、そう言った。
「そうかもしれないな」
せめて、お前を少しでも楽にしてやりたかった。
「飲んでくれ」
冷やしたミードを手渡す。
「要らない。もういいんだ」
お前は受け取らなかった。
もう俺は一生、お前に寄り添うことは出来ない。
それがお前の答えだと思った。
止めろとも、待っているとも言えない罪を負って、俺はミードを暗い海に投げる。
「——……ライ。」
振り返ってお前を見る。
「なんでもない。……もう来なくていい」




