408.5 手記13
「わからない……なぁ……」
「どうしたの?三島君」
ブレイズレイダーの組み立てがどんどん進んでいる。
全て順調なのに、拓海は小さな部屋に籠ったきり、あまり出てくることはなかった。
「いよいよ成功というところなのに……あんなに一緒に研究したのに……」
「まぁ、篠坂艦長はそういうところがあるわよ」
「そうなんですか?」
俺は腑に落ちない心をなんとか落ち着かせようと、ホログラムキーボードをパチパチと打ち鳴らしていく。
「解析、問題無さそうね。流石三島君だわ」
褒められて嬉しくなったりする。
「真面目なやつだと思ってるんですけどね」
ブルーホールでのあいつは必死だった。
よく一人で居なくなっていたけど、新しい研究成果を持ち帰って、常に、目的からブレることが無かった。
でも今のあいつは……主に寝転がって漫画を読んでいるように見える。
「……三島君、寂しいんだ?」
「エッ!?」
俺は急に顔が熱くなって、小松さんから目を逸らした。
「私はね、少し嬉しいかな。休まないのよ艦長って。スタッフが信頼できないとね」
「……てことは、俺とふたりの時は信頼できなかったんだ……」
我ながら、なんか彼女みたいだと思ってちょっと恥ずかしくなる。
「……少し、特別な感じだもんね。艦長と三島君って」
「……小松さん、そういえばいつの間に俺のことサブロー君から三島君になっちゃったんですか?」
照れ隠しに、さらにおかしな質問をぶつけてしまう。
「……あぁ、艦長が三島三島ってあまりにも言うから、うつっちゃんたんだわ」
「忖度し過ぎですよ。元上司に」
「好きなのよ」
突然の台詞に、ドキ、っとする。
「あんな上司はいないわ。今までも、これからも」
「……俺も……です」
真っ直ぐに微笑む、こういうところが小松さんの居心地の良さをつくっているのだ。
なぜなのかは分からないけど、俺は拓海という人間が好きなんだと思うと、妙にいろいろ納得した。
「ハー、今日の進度、報告してきます」
「ありがと。助かるわ」
「いってきます」
不思議に嬉しい気持ちで、メカニックルームを出ると少し冷たい風が吹き込んだ。
「窓が開いてる……」
灰色の通路の突き当りの窓から、みぞれ交じりの雪が入り込んで来ていた。
「季節は変わっていくんだな……」
思い切って窓を開けると、のどの奥がしんとして高揚していた気持ちが穏やかになっていく。
「好きってことか」
それは単純で、ただ、小さな雪みたいで……
——ねぇ、一緒だね、弟よ!
仁花の声が聴こえた。
「……そこまでじゃないわ!」
俺の声は、仁花に届くだろうか……
——あの部屋に居る、拓海にも。




