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「ライさん、どうしたんですか?」
作戦は簡単だった。
エリアZの調査はレイダーによる撮影だけと決まった。
俺はいつまでも真珠のホログラムを見ていた。
「綺麗ですよね」
雨沢が投影範囲を広げると、ブリーフィングルームにあの日の海が広がる。
潮の香り——。
あの日のことを思い出す。
「美しいものは、美しいままにか……。この真珠はどうして、ここに行きたかったんですかね」
雨沢が、映像の真珠に触れる。
「行ってみたかったからだ。きっとな」
雨沢が、驚いたように俺を見つめる。
「ライさん、珍しくロマンがあるじゃないですか。これって、何者かが移送した可能性が高いんですよね?」
俺は、投影された偽物の海の上に座った。あの日のように。
雨沢が隣に座って、空を見上げた気配がした。やつとよく似た気配に問いかける。
「お前はあるのか、行きたいところが」
「……ありますよ」
その答えに、安堵する自分がいる。
「それがどこかは訊いてくれないんですか?」
「知るか」
「なんなんですか」
楽し気に笑う若造が、今回の作戦を決めた。
こういうやつが育ち、化石みたいな俺は要らなくなる。
何も遺せず、忘れ去られていく。
「でも、綺麗ですね」
そんな筈は無い。ただ、風化していくに過ぎない。
「忘れられた珊瑚か……」
——綺麗だね、ライ。
お前の声が聴こえた気がした。




