表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薄明のハイドロレイダー  作者: 小木原 見縷菊
雪月花……——鋼鉄のダブルムーン
422/743

403

「着替えもしないのか」


 エアバイクを運転しながら、ジンは笑った。


「いいんだ!今夜はもう誰にも会わないし!!」


 血塗られたコートを羽織り、海の上を軽快に飛ばすおまえは、映画の主人公にでもなったみたいに月下で光って見える。


 ジンは、自分の体をホログラムにすることで、痛みを根絶した。


 残っている本物の体は、心臓と頭のみ。


 大きな犠牲と引き換えに手にしたものが、この夜の海の景色だというのか……。


「リアルだろ」


 血のりがやけに生々しく、服を湿らせていた。


「もう、血の温かさなんて忘れてしまったけどね」


 ジンの微笑みを見るたびに、俺の心は硬くなっていく。


 いつのまにか、傷つくことすらなくなって、ただジンに起きていることを自動的に受け入れる。


 ただただ、重い鉛がじわじわと広がっていくように。


 そしていつか、動けなくなるのだ。


ジン!なぜエリアZに!?」


 イルカみたいに、並んで進んでいたはずの距離が空いていく。


 波の合間をって、彼方へ……


 冷たいしずくが頬を濡らす。


「ただの興味だよ!!!」


 楽しそうな声が、月を反射する。


「行ってみたいんだ。どうしても!」


 どうしても行きたい景色。


 痛みがないはずの俺は、行ってみたい景色が無いことに心臓が鳴った。


 どうしておまえはそんなふうに笑って進むことが出来る……。


ジン!」


 名を呼んでも、その姿は遥か波の向こうでねただけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ