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月の港の構想は神が作った。
何年かの時を経て、実行に移したのは小松の前の初代艦長、篠坂だ。
俺は面識が無かったが、今は艦長を退いてはいるが機関のどこかで働いているとは聞いた。
HyLA……機関を変えたのは企画開発室のサブローだ。
俺を迎えに来たのも。
そしてほどなく、雨沢に会った。
路地裏で、あの日の神のように雨に打たれていた俺を、どうやって見つけ出したのか、サブローは傘を差しだした。
俺はもう、生きるのに疲れていた。
失った過去も癒えず、未来を描くことが出来なかった。
自分がしてしまった過ちも。
雨沢はひたすら、新しいエネルギーについて語り続けた。
俺が聞いていても、いなくても。
一定の温度で。
「ライさん、真珠が見つかりましたよ」
母艦の船底の一番奥に、小部屋を作った。
俺に似合いの、灰色の小さな部屋だ。
「どうやって……」
「世界中の真珠の位置を把握するシステムを作ったんです。それで、しらみつぶしに」
一体何個あるというのだ。
「靄はどうやって搔い潜った」
ディストレスは、こちらの探査を阻害する磁力を発していることが分かっている。
「AIdトレースシステムとの合わせ技です」
楽しそうに笑う雨沢に罪悪感を覚える。俺は本当はここにいていい人間じゃない。




