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「ミカ〜ココア淹れたよ」
母艦が着艦している月基地では個室が貰えていたけど、幸子がハンモックを持ち込んでアタシたちは二人部屋だ。
「幸子、付き合わなくていいけど」
狭い机にノートを並べる。
一人で頑張るよりやる気が出るけど、いつもだけど幸子は忙しいのに。
「いーの。アタシだって置いていかれたくないもん」
「えっ」
それはアタシの台詞なのに。
これ以上差をつけられたくないのに、幸子の瞳は前を向き続ける。
「なんかさァ、ちょっと涼しくなると、勉強する気持ちになるよね。あったかい部屋でさ」
「アイス食べたくなるけどね」
「ミカ、やる気ないじゃん」
「あるよ」
少しふざけたりして、アタシはノートに覚えたいコトを書いていく。
新しい記号、言葉、イメージ。
その全てが、未来のアタシを作ると信じて。
幸子がやっているのはラテン語だと思う。
どこでどうやって使うのか分からないけど、幸子が学んでいるならどこかで何かに使うのだろう。
「ね、ミカ。終わったらアイス食べよ」
「いいね」
「だよね☆」
ミッドナイトアイスがあれば、アタシたちの機嫌はたちまち回復する。
バニラにきなこをかけようかな。
そして至福の気持ちで朝まで眠るのだ。
アタシは銀色のペンで、繰り返し、ノートを埋めていく。
明日の自分を労わるように。




