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予定通り、月でのトレーニングが始まった。
アタシは少し元気になって、日々を過ごしている。
「OK、ハイドロレイダーいい感じだ」
低重力下での駆動にも慣れてきた。
「この感覚を少しずつ記憶してほしい」
少しずつ。
初めは慣れなくても、繰り返し記憶する。
アタシはいつの間にか、無理という言葉を言う機会が減ったかもしれない。でもそれは自分だけの力じゃない。
「今日はここまでにしよう」
「分かりました!」
達成したみたいな弟の様子に、アタシはいつも安堵する。
「ジュン君、ご飯食べたら卓球しようよ!今日はとんかつだってさ」
「シュウジは明日小学校だろ……」
「少しだけ!姉もやんない?」
「アタシはやんない」
トレーニングはジュンとアタシはクラスの単位になるから、集中して取り組むことが出来る。……けど、アタシにはもっと知りたいことも覚えたいこともあるから、少しの時間でも出来ることをしようと思っている。
「まぁ、二人で楽しみなよ」
遊ぶときは遊ぶことも大事だ。
アタシだって最近はいくつかのミュージックビデオに合わせてカスタネットを叩いたりしてる。正直たのしい。
でも今日は頑張りたいのだ。
「じゃ、また今度やろ」
それで理解してくれる弟は聡い。
「おぅ、ありがと」
アタシは息を吸い込んだ。




