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秋雨が、利根川に打ち付けているのが見える。
濁流となった茶色い流れが、黒雨を跳ね飛ばし、いくつもの雷鳴が、遠くに堕ちていた。
「……——いい匂いがする」
今日やられたものだけではない神の傷——。
「食べてもいいの?……ライ」
主任だけじゃない。俺はそれを知っていた。
「動けるならな」
他人ごとだと言い聞かせて。
「んー……無理かも」
こんなことで、償いにならない。
「何故、やりかえさない」
お前の知能なら、術があるはずだ。
「うまそう!ブラウンシチューなんて久しぶりだなぁ」
何故俺の罪を責めない?
「痛みの先の未来を視てる……から、かな」
「痛みの先の未来?」
「そう、この真珠はね、ライ。人類の滅亡のトリガーでもあり救国の女神でもあるんだよ」
こいつが考案した国連科学開発省環境開発部の白衣の認識阻害ポケットから、白い真珠が出てくる。
「機密モバイルUSB入れじゃなく、それを想定してたのか」
「そう。格好いいだろ?」
こいつを傷だらけにした原因は俺にもあった。
「俺は見ていた」
それが俺の罪だ。
「何故俺を信じる……」
神は満ち足りたように笑う。
「僕がライを?まぁ、顔のいい奴は嫌いじゃないけどね」
ベッドに沈み込んで、神は雨を見ているようだった。
「君を信じているわけじゃないよ、ライ。僕は僕の直感を信じてるだけだ」




