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薄明のハイドロレイダー  作者: 小木原 見縷菊
冷たい海……——常しえの水中花
375/745

360.5 手記⑨

「花なんか、んでどうする」


「殺風景だったと思ってさ。……たまごのお菓子もいいけど」


 特務機関の円盤を休憩がてら無人島に停めて、俺は野菊を集めていた。


小松こまつ旦那パートナーがいるぞ」


「ざ、残念……まぁ小松こまつさんにもリエナさんにも、元気になってもらいたいしさ」


 IOP消失以降、散り散りになった特務機関の現、作戦本部エリアB。


 ブルーホール探索に出立しゅったつする時に世話になった所長の小松こまつさんにも、副所長のリエナさんにも、俺はその後何も連絡をしていなかったことに罪悪感を覚えていた。


 二人とも、仁花にかの元部下で、俺に弟のように良くしてくれた……無意識に甘えてしまっていたと思う。


「あまり気にするな。ブルーホール(あそこ)からは連絡は出来ない。……今はな」


「どういう意味?」


「エリアBに行けば分かる」


 煙草の煙を揺らしながらそんなことをいう拓海たくみも、あの大量のおいしいお菓子は、エリアBの仲間への贖罪しょくざいに違いない。


「まぁ、花はないよりいいだろ?可愛いしさ」


 薄紫の可愛らしい野菊。


 忘れられない想いを込めて、丁寧に集めていくと、なかなかに可愛らしい花束になった。


「使え」


「えっ何これ。拓海たくみなんでロープなんて常備してんの?」


 麻で編まれたロープを、花を傷つけないように丁寧に巻いていく。


「ロープはいくらあっても困らない」


「何それ、まぁ確かに」


 完成した花束を、亜空間格納庫(イベントリ)に追加する。


「これで大丈夫かな……ていうか、髪の毛、怒られそう」


 不精して髪を伸ばしていると、仁花にかによく髪を切れと怒られたのを思い出す。


 どこか雰囲気の似た小松こまつさんとリエナさんは、もしかしてお小言を言うかもしれない……。


「そうかもしれないな」


 白い清潔なシャツに、整えられた色素の薄いサラサラの髪……


めたな、拓海たくみ……」


「ちゃんと着替えろとは言ったが?」


「はっ!言われた!……言われたけどさ!」


 なんとなくに落ちないけれど、行方しれずの気ままな旅と、こんな具合の再会が、もしかして俺には良かったのかもしれない。


「ま、いいか。会えるのが楽しみだよ」


 気を取り直して、少し涼しく感じられる空を、見上げる。


 太平洋の真ん中の無人島は、海の音がして綺麗だった。

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