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優しい雨が、しんしんと降っていた。
こっぺ、こっぺ……こっぺ、こっぺ……
雨音を聞きながら、アタシはちゃぶ台のお櫃からご飯をよそっていた。
「基地内は外の世界の天気と連動しているんだ」
白いどんぶりを受取り、サブローが言った。
アタシは空席に置かれた、緋色に塗られたお箸を見つめた。
シュウジは銭湯に、母はHyLAに出勤し、宗ちゃんは……また籠ってしまった。
アタシはお櫃に残ったご飯を、おにぎりにした。
スチール風の階段をカンカンカン……と降りていき、下の階の扉を開ける。
鍵はかかっていなかった。
下の部屋は、下の階のお父さんとお母さんが生きていた頃のまま、綺麗に片付いていた。
窓辺の文机には一輪の薔薇。畳の上に宗ちゃんが転がっている。
アタシは花瓶の水を変えて、おにぎりを文机の上に置いた。
「薔薇もAIdだから意味ない……」
宗ちゃんは動かずに言ったけど、アタシは構わずに丁寧に、薔薇を窓辺に置いた。
それから窓を開けて、文机の引き出しから色鉛筆を取り出して、絵を描いていく。昔みたいに。
雨が、しんしんと降っていた。
「みっちゃん、辛いんだ……」
三年で癒えるわけない。
「……うん」
アタシは虹色の猫を描いた。
赤、橙、黄色、緑、青、藍、紫……。
丁寧に、丁寧に色を付けていく。
宗ちゃんが、呻き声みたいな、ひとりぼっちの猫みたいな小さな声で言った。
「みっちゃん、……緋は、緋色の緋。焔は火へんに陥れるに似た字の焔なんだ……スカーレット……ブレイズ…………」
陥れるて。
「……うん」
アタシは少し笑ってしまった。




