355
「明日、ドキドキするために……」
こんな気持ちで、ドキドキなんて出来ない。
「あの日を思い出すために〜」
「やめて」
「……どーした?ほっしー」
「……ごめん」
コックピット内のBGMは、チームで共有できるようになっていた。
「三女ちゃんの曲、みんな好きじゃんか」
そう言いながら、リイヤは音楽を消してくれた。
「好きだよ。……ただ……。そう、怖くってさ」
「確かに、この暗い海に鑑原三女の曲は希望がありすぎるかもな。これでどうだ」
ジュンがかけてくれた古代のゲームミュージック(たしか教会の場面の)は荘厳で美しくて、心が落ち着いた。
「TPOってコトね。ま、了解っ。なー、終わったらみんなでカラオケ行こーぜ!」
「リイヤ君、いいね!僕ももう覚えちゃったんだ」
「どうせリディアも桃菜ももう歌えるだろ」
「ノーマンは帰省中だろ?戻って来てからがいいのでは?」
ジュン、カラオケとか行くんだ……。アタシは行かないタイプ。でも、小学校の時のみんなとハピたんの曲はよく歌った。心が楽しくなるんだよね。
でも。
今は雲の向こうに隠れてしまっているような、楽しかったことがまるで自分の記憶じゃないみたいに遠くて、よく思い出せない。
好きだった歌も、思い出も、幸子の笑顔もいくつもある筈なのに。
嫌われてるかもしれない。その思いに囚われて。




