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心の拠り所と思っていたものが、実は違っていたなんて何度もあった。
ひとつ、ボタンを掛け違えただけで、取返しのつかない一日になってしまうことも。
それでも、揺るぎない、半ば、魂に刻まれた反射のように、私は声を紡ぐ。
「明日、ドキドキするために」
両親に、笑って欲しかった。
「あの日を思い出すために」
お姉たちに、褒められたかった。
「忘れない……」
ミカと、友だちになりたかった……。
「忘却の花束は、常しえのレイフラワー」
みんなを元気にするために。
スポットライトの下で、私は歌い続ける。
笑顔を振りまいて……。
「お疲れ様、happilarmcess」
音が消えた舞台は、ブラックホールみたいだ。
心が消えてしまいそうになる。
「……どうして……由姉のほうが、気が合ってたでしょ、マックス」
流星のようなエレクトロビートの嵐の中で、私の新曲が完成した。その余韻が煌めけば煌めくほど、私の中のブラックホールが音も無く広がっていく。
「僕はミュージシャンだからね。気の合う合わないは関係ないさ。それにしても、リハーサルも完璧なパフォーマンスだ。君の生誕祭に参加させてもらえて光栄に思ってる。わかるデショ?」
なんて言えばいいのか分からない。私が今、傍にいてほしいのはあなたじゃない。
それでも私は舞台に立ち続ける。
魂に刻まれた宿命を果たすために。
「先に休むよ」
この痛みは何?
(ねぇ……助けてよ、ミカ)




