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薄明のハイドロレイダー  作者: 小木原 見縷菊
9月の月……——刻遺のクリザンテーム
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「クリザンテーム ドゥ ルブリ!!!」


 コランダムの水素針すいそしんが魔法みたいに光って、菊の花びらが……雪、みたいに炎の山に降り積もっていく。


「光の……花びらだ」


 一面のサルビア(ディストレス)は、光の花弁に埋め尽くされていた。


 雪が、全てを覆い隠すように。


 花びらが散るその景色は、潔く美しく……積もっていく光は、いつまでも優しく暖かだった。


 夕日が落ちて、月が昇る。


 アタシの涙は、憂いなのか慟哭どうこくなのか分からない。


 それとも……


「凄かったね」


 シュウジの声が、遠くにいるみたいに聴こえる。


「うん……」


「今日は来るかな、シチュー食べに」


「分からないよ……」


 闇が降りる画面に、コランダムレイダーが静かに立っている。


 真っ直ぐに。


 アタシに出来ることなんて、ありはしないのだ。


「ちょっと出てくる」


 アタシは弟の腕を振り切って、夜がやってきた灰色の空を見上げた。


 理由の見えない涙が止まらない……


「わぁーーーーんッ!!わぁーーー……」


 息がうまく出来なくて、必死に叫んでも、答えなんて出ない。


 もうせみの声が聞こえない。


 それでもアタシは必死に夏を探した。


 楽しかった夏を。


「わぁあああーー……」


 なんでこんなに、心が痛いんだろう。


 それでも、遠い幸子さちこが作り出した景色は、目の奥に焼き付いて、美しかった。


 土の上に寝転んで、空を見上げる。アパートの廊下の蛍光灯が、かちかちと点滅している。


「……綺麗」


 ぼんやりとかすんだ心の奥のほうに、遠くにじんだ月が、浮かんでいた。

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