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「クリザンテーム ドゥ ルブリ!!!」
コランダムの水素針が魔法みたいに光って、菊の花びらが……雪、みたいに炎の山に降り積もっていく。
「光の……花びらだ」
一面のサルビアは、光の花弁に埋め尽くされていた。
雪が、全てを覆い隠すように。
花びらが散るその景色は、潔く美しく……積もっていく光は、いつまでも優しく暖かだった。
夕日が落ちて、月が昇る。
アタシの涙は、憂いなのか慟哭なのか分からない。
それとも……
「凄かったね」
シュウジの声が、遠くにいるみたいに聴こえる。
「うん……」
「今日は来るかな、シチュー食べに」
「分からないよ……」
闇が降りる画面に、コランダムレイダーが静かに立っている。
真っ直ぐに。
アタシに出来ることなんて、ありはしないのだ。
「ちょっと出てくる」
アタシは弟の腕を振り切って、夜がやってきた灰色の空を見上げた。
理由の見えない涙が止まらない……
「わぁーーーーんッ!!わぁーーー……」
息がうまく出来なくて、必死に叫んでも、答えなんて出ない。
もう蝉の声が聞こえない。
それでもアタシは必死に夏を探した。
楽しかった夏を。
「わぁあああーー……」
なんでこんなに、心が痛いんだろう。
それでも、遠い幸子が作り出した景色は、目の奥に焼き付いて、美しかった。
土の上に寝転んで、空を見上げる。アパートの廊下の蛍光灯が、かちかちと点滅している。
「……綺麗」
ぼんやりと霞んだ心の奥のほうに、遠く滲んだ月が、浮かんでいた。




