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アタシたちはヤマタノオロチを倒した。
残るはホーリーローズ。
動かない対象の殲滅なんて、今の宗ちゃんとシュウジになら、造作もないことだと思って、アタシはやっと息が出来た。
恐ろしい怪物が現れても、アタシたちは負けない。
シュウジと二人きりの闘いに、心強い兄が帰って来た。
「よし、宗ちゃん、僕たちが上からアローを降らせるからタイミングを合わせよう!」
シュウジの声に、アタシは操縦管を握ってアローを放つ準備をした。
「宗ちゃん?」
ブレイズレイダーの動きが、止まっていた。
「宗ちゃん……?」
荒野に立つ、一輪の薔薇……。
下の階のお母さんが好きな花。
巨大なそれは、ハイドロレイダーのアローだけでは、下まで貫けずに再生してしまうだろう。
「宗ちゃん?」
ご飯を食べて、仕事に行って……。
「宗ちゃん!」
帰ってきた兄は、そういえば他に、何をしていただろうか。
……シュウジとアタシたちを学校に行けるようにしてくれた。
「宗ちゃん!」
HyLAの人たちのために、色々な調べ物をしていた。
「宗ちゃん!!」
人類のために、ブレイズレイダーに乗っていた。
「宗ちゃん……」
でも自分のことは?宗ちゃんの目は、どうだっただろうか。
「……てよ」
宗ちゃんの目はいつも、わくわくキラキラしていた。昔は、好きなこといろいろ話してくれた。
でも今は……
「宗ちゃん!ちゃんと帰って来てよ!!!」
「実華!揺れるよ!備えて!!アクアフルール!!!!!」
「はぁ!?うぅう……っ!!」
バリアが放たれた衝撃で体が激しく振動した。
「宗ちゃん!見て!!!」
シュウジが叫んだ。
荒野の薔薇は、アクアフルールたちに包まれて、不格好な紫陽花みたいに変わった。
宗ちゃんは、泣いているようだった。
「……この世の全てが緋く染まる」
……え?
「僕の希望が焔に変わる」
宗ちゃん、台詞なしで攻撃出る……よね。
「燃え上がれ!!!」
でも!
「「「ディストレス!」」」
「スカーレット!!!!!!」
「「バーキング!!!!!」」
「ブレイズ!!!!!!!!!!!」
「「アロー!!!」」
緋色の炎に一輪の薔薇が優しく灼かれていく。
一筋の煙が、天に続いているように、立ち昇っていった。
アタシは、下のお母さんを想って泣いた。




