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「はぁ……」
「姉、どうしたの?」
「別に……」
一晩寝かせたカレーに、24時間オートマティックデリバリーのチキン南蛮が乗っている。
それに、母は新しく、ごまワカメサラダも添えてくれた。
「お腹空いてないの?」
「空いてる」
アタシはチキン南蛮にカレーを絡ませて口に運んだ。
一晩寝かせたカレーはおいしいし、古代のテレビドラマの再放送は面白い。
「懐かしいなー……この探偵さんと刑事さんのでこぼこコンビが、痛快に犯人を暴いていく様が好きだったんだよね」
母が若い頃から、何度か繰り返されている再放送は、アタシもシュウジも好きなドラマだ。
黒い服を着た探偵がスポットライトを浴びて、痛快に謎を暴く。
アタシもこんな風に、なんでも見抜ければいいのに……
「えー……姉は何か悩んでいますね?そうでしょう?」
手のひらを顔に当てて、シュウジが探偵の口調を真似た。
「別に。アンタも早く食べれば?」
シュウジと宗ちゃんが、アタシのもやもやを気にしているのが分かってるけど、アタシは上手く言えない。
「食べたら寝るよ」
来るって言っても、幸子も、他のみんなも、来れなくなることもあった。
歯磨きしながら、お風呂場の小さな窓から空を見上げる。タイルに滑る水が、ひんやりと冷たい。
木枠に切り取られた小さな夜空と白い月。
なんだか全てが、儚く見えた。




