338
「お疲れ様!」
薄暗い、狭い和室が、久しぶりに静かだった。
サッシの向こう側には灰色の夜が降りて来ていて、ペンダントライトが静かに輝いている。
「母。……なんか久しぶり」
皆の星ヶ咲さんになってしまっている母は、夏休み最後の旅行の間離れていたせいもあってか、久しぶりにアタシの母だと思える感じがなんだか気恥しいような気がしたけど、アタシは注がれた麦茶をごくごくと飲み込んでお茶を濁した。
(リイヤやジュンは完全にHyLA控室スタッフの搭乗者マネージャーの人と思っていそうだ。母はHyLA-Firstの総務兼、サブローが所属する企画制作部のマネージャーチームに所属しているけれど、搭乗者のマネージャーではないのだ!)
まァ、母が頼られたり慕われたりするのは嫌な気はしないケド。
「嘘、母髪切った?」
「あぁこれ?ミカたちが旅行してる間にね。いいでしょ?」
今朝も会ったのに、気づかなかった。
もともと、テニス少女のような溌剌としたショートカットが、さらに短くベリーショートになっていて、なかなか爽やかだ。
「いいじゃん」
気づかなかった罪悪感を、麦茶を飲んでやり過ごす。
母は気にしないかのように鼻唄を歌い、カレーを盛り付けていた。
「シュウジ、部活で遅いみたいだから食べちゃお!」
はじまった新しい生活。
アタシのお腹はぺこぺこだった。




