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蝉の声がジジジジ……と聞こえていた。
マンハッタンを一望出来るテラスには、夏休み前にはなかった一本のオークが植えられ、木陰となった芝生がいい感じだ。
「でもまだ暑いねー☆」
幸子がアイスティーの氷をストローでカラカラ鳴らす音が涼し気だけど、まだ、外でランチをするのは失敗したかもしれない。
ロボ奈ちゃんはだらだら溶けていくシェイブアイスを懸命に飲み込み、舌がいちご色に染まっていた。
「蝉め……」
ニューヨーク風のジャズでも聴こえてきそうなテラスにあんまり似合わないかつ丼(でもHylab(2組)の屋上食堂には和食もある……!そしておいしい)を食べながら、新学期、何かあったかと言わんばかりにすっかり魔王で登校してきたジュンが呻いた。
「美味しいわよね」
みんながレイチェルさんを見た。
久しぶりに見たレイチェルさんは、長かったストロベリーブロンドをバッサリ切っていて、前髪長めのストレートボブが凄く大人っぽい。
「グレイ財閥……、まさか食うのか?」
「ちょっとサガラ君、そんな呼び方しないでいただきたいわ。レイチェルと呼んでくださる?」
「……我は女子を名前で呼ぶことはない。呼ぶとしたらレイさんだ」
「ま、まぁいいわよ」
クラスが始まるのは楽しみでもあったし、面倒でもあった。
でもこんな時間は、やっぱり嬉しい。




