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薄明のハイドロレイダー  作者: 小木原 見縷菊
37.8°C……——雷鳴と風鈴
336/741

324.5 手記⑥

 コーヒーの匂いがした。


 拓海たくみれるコーヒーの匂い。


 初めはエネルギーゼリーを飲んでるところしか見なかったけど、副艦長室で寝泊まりを始めて、拓海たくみは毎日コーヒーを丁寧にれている。


 俺が起きれない朝は、ハムエッグとバターロール付き。


 ニンジンのラペは仁花にかの味だ。


「これ、食べたく無いんですけど」


 レーズンとアーモンドが入ったキャロットラペ。


 のそのそと布団から出て、ちゃぶ台につっぷしてラペの皿から目をらす。


 まだだ。


 まだ俺は仁花にかがいないことを受け入れられない。


「うまいぞ」


 知ってる。


 拓海たくみは意に介さないように新聞を読みながらコーヒーを飲む。


「食べながら読むなよ」


「まだ食べてない」


 ……この男は……!!!


 結局俺は少しだけラペを食べる。


 毎日少しずつ、少しずつ。


 悲しい気持ちを飲み込んでいく。


 拓海たくみ仁花にかのラペを作るのは俺のためなのか、自分のためなのか分からない。


 それが重要なことなのかさえも。


 もやもやする気持ちを、ブラックコーヒーの苦味で流していく。


「食べたら着替えろ」


「……えっ。何で?」


 今日はブレイズレイダーの試作品の解析と製図を進める予定だった。


「上官命令だ」


「……めたんでしょ?機関」


小賢こざかしいな……」


 でも俺は知っている。……というか、この時点で俺は拓海たくみを信頼していた。


 ブレイズレイダー製作において、拓海たくみのひとつひとつの意見は確実に成功に導いている。


 ハムエッグを食べてコーヒーを飲み干して、久しぶりに鏡の前に立った俺は少し驚いた。


「このヒゲよ……」


 漂流生活でもしたようなぼさぼさの髪とヒゲが、愛用のサングラスとあいまって不審者でしかない。


 俺は久しぶりにヒゲをり、髪を結んでインディゴブルーのシャツとジーンズに着替えた。


 拓海たくみはいつもの白シャツだったけど、下はジーンズでいつもよりラフな感じだった。


「こっちだ」


 久しぶりに、部屋を出る。


「なんかまぶしい……」


 通路のガラス窓から燦々《さんさん》と注ぐ朝日が、いやにキラキラと眩しかった。


 拓海たくみに続いて梯子はしごを登り、甲板に出ると、目の前一杯に青い大海原が広がる。


「キレー……」


 爽やかな海風が心地良かった。


三島みしま、何してる?こっちだ」


「えっ拓海たくみ?エッ?」


 甲板に作られたドッグアンカーみたいなペグに頼りなく結ばれたロープの先に、俺が乗ってきたベニヤでコーティングされたみたいないびつな円盤が頼りなくたたずんでいる。


「いくぞ、日本に」


「へっ!?」


 突貫工事の円盤(これ)で!?


「多少、直した」


 た、確かに拓海たくみは部屋から居なくなることがあったけども!


 はためく拓海たくみのシャツが太陽を浴びて、いやに不敵にばさばさと揺れた。

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