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「「可愛いーッッッ」」
ひんやりした通路に、ほんのり土の匂い。
透明なアクリルケースに手を伸ばすと、中に空いた小さな穴から、妖精みたいに小さな手が懸命に伸びてきてアタシの手にハイタッチした。
「!!!!!!」
あまりの可愛さに言葉を失う。
「ほっしぃ!私もやるッ」
珍しくはしゃいでいるショーコの瞳に、アタシは快くアクリルケースを譲った。
「やりなやりな!っっっめっちゃ可愛いよぅ」
水槽の向こうで、キュンとした小さな瞳のコツメカワウソがくるりと一回転し、ショーコの手にハイタッチした。
「っっっっっふッ」
「ちょッショーコ声出てないッ」
アタシたちはドキドキする心を抑えながら、後ろにならんでいたチビっ子たちに速やかに場所を譲った。
悠々と泳ぐオニイトマキエイのトンネルに圧倒されながらもゆるやかな優しい動きに癒されながら、コツメカワウソの可愛さに心が煌めいていた。
このままじゃいられない。
そう決心して、アタシは荷物をひとつ下ろしたみたいに気持ちが丸くなっていた。
「ほっしぃ!!」
ショーコにぐいとひっぱられて、リクガメとカピバラのエリアに足を進める。
もがいても、アタシはやると決めた。
「可愛いよね、陸の生き物も」
「……うん!」
たとえ今、自由に泳げなくても。




