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「なんかドキドキする……」
少しお洒落をしてきた。
薄いグレーのシフォンスカートにベージュのグラディエーターサンダル。歩きやすいし夏っぽい。
麦わら帽子にいつものおさげ。
白いTシャツには楓に似た猫の後ろ姿。
耳には、白銀色の猫が跳ぶ姿が華奢な鎖で吊るされたイヤリングを付けた。
瞳は寝待ち月の形の、琥珀色の猫目石。
汗が流れ落ちて行くけど、水族館に続く坂道を登っていくと、心が静かにトクトクしてくる。
「道、結構人いるね」
夏休みの楽しそうな家族連れ。仲の良さそう恋人たち。アタシたちみたいな友だち同士もいた。
「みんな行くのかな、水族館に」
「そうかもね」
ショーコのサンダルも歩きやすそうだ。
白いコットンワンピースが風に揺れる。
ショーコの麦わら帽子には、深緑のリボンが靡いていた。
ショーコの好きな色だ。懐かしかった。
水族館の入口は混雑していたけれど、きらきらの夏休みの思い出の予感に、アタシたちはドキドキしていた。
「あっちだ、チケット」
「うん、並ぼう」
並ぶ時間にお喋りする。
「ショーコ、誕生日プレゼントありがとう」
新しい学校で友だちできた?
「あ、ちゃんと届いてよかった。おいしかった?」
「うん、すっごくおいしかったよ!」
本当に聞きたいことは、胸の中に在る。




