299
「それで、リディア・ノーマン君、乗ってみて、どうだったかい?」
次は俺が訊かれるのか、と思いながらリディアの意見を聞く。
「概ねリハーサル通りでした。とはいえ、一人では時間がかかるか……失敗していたかもしれません。キュロス君が来てくれて助かりました」
げっ、俺はトレーニング通りじゃ無かった。
……というか、必死過ぎて記憶が曖昧だ。
リディアのやつ、そんな冷静だったのかよ……。
「リイヤ・キュロス君はどうだったかい?」
三島さんも形は変わってるけど、宗と似た雰囲気がある気がした。笑われたりは……しないだろう。自分のコトバで言うしかない。
「えっと、怖かったす」
正直な気持ちだった。……ほっしーが凄い勢いで頷いてる。
「でも……なんていうか、やれば出来るじゃんっていうか、もちろん!リディアがいなかったら無理だったんですけど。それでも、俺が子どもだからとか、やり始めたばっかとか、そうなんですけど、やらなきゃ分からなかった達成感っていうか」
メルトが背中を押してくれたことを思い出したり、いい気分だ。
「ポジティブだな」
ジュンがぼそっと言った。
「俺は怖いままだ」
それも分かる。予想してないことが、あり得ない間隔で起こる。どこまでやれば正解なのか、どんな意味があるのか、見失いそうになる。
けど、無意識にこの状況に辿りつくことを決めたのはたぶん、自分だ。偶然でも、流されたとしても、引き返すタイミングもあった筈だ。
「分かるよ」
三島さんも、俺たちを見てそう言った。
「……大変な状況に慣れて欲しくはないからね。痛かったり苦しかったり……ネガティブな気持ちも、共有して欲しい」
◯◯◯
「僕がやらなくちゃ!」
蝉の声が聴こえていた。アイスバーが溶けかけている。
「やめときなよ」
移動教室の実行委員なんて、夏休み中活動が無い部活のコにやってもらえばいいのだ。アタシは姉として、シュウジに無理させるわけにはいかない。
「山杉君にやってもらえば?彼、遠足の実行委員も経験あるでしょ?」
「そうだけど……山杉君に比べたら、僕なんてダメかもしれないけど……それでも、僕の力でやってみたいんだ!」
シュウジの突然の思いつきに振り回されるのは結局母やアタシだ。それでも……
「姉や母に夏休み中の家事の負担かけるかもだけど……お願い!お願い!!お願ーい!!!」
いつだって諦めず、挑戦し続ける君を最後には応援してしまう。
「しょうがないなー!!!」
アタシもまた頑張るか!
君の姿は、永遠にみんなの心の中に。




