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思い出に背中押されて
喪失に打ちのめされる——。
モンテレイの乾いた風は哀しいけれど、心地良くも在った。
誰も知り合いの居ないこの土地で、俺はそれなりに頑張った。
現地のチワワを見かけては、メルトとは全然違うと寂しさを覚えた。
結局、同じ存在には二度と会えない。
だから隣にいる運命になったなら、後悔しないように慈しむしかないんだ。
いつ別れが来てもいいように。
「志願してくれた理由は?君は、ご両親と離れてまで、単身、メキシコに来た訳だろう?」
「相棒が嬉しい顔をすると思ったから……」
「相棒?」
緋色のゴーグルを付けた怪しげな男……声は、……若い。おっさんにも学生にも見える。半ばヤケみたいに洗いざらい話す俺の個人的事情なんてどうでもいいだろと思いつつ、そいつは俺の話を遮らなかった。
「チワワの……ダークグレーのスムースチワワのメルトって言うんですけど。……俺が思いつきでやったこととか、失敗したら側にいてくれて、どんなにくだらないことでも、楽しそうにやってたら嬉しい顔をするんです」
くだらなくはないか……。世界を救っている機関の人に向かって失言だったとヒヤっとしたけど、男はかえって面白そうに笑った。
「なるほどね、思いつきか……」
「違っ……!……いや……」
違わない。
どうでもいいとなんとかしたい。
寂しさと思い出の狭間で、俺はHyLAの適合試験を受けていた。




