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搭乗者募集……——
ランドオブサウスの乾いた風が、モンテレイサイエンスアカデミックハイスクールの夏緑のグラウンドに吹き渡り、俺の視界を奪った。
「ぶっ」
もうすぐ夏休み。
その年、高校一年生だった俺は、五月病がずっと続いているような、憂鬱な日々を過ごしていた。
「ハイドロ……レイダー……適合試験……」
顔に貼り付いたポスターを捨てた。
気力が無かった。
父ちゃんは普通のサラリーマン。母は普通のパート主婦。でも、世界的に有名なAIdフォトグラファーのじいちゃんの莫大な遺産で、俺は中学を卒業するまで、ドバイで何不自由なく暮らしていた。
俺には兄弟がいた。
チワワのメルト。
メルトは犬だけど、相棒でもあり、親友でもあり、俺のたった一人の兄弟だ。
でもあの夏、俺が小学校のサマースクールに行っている間に、メルトは旅立ってしまった。
他の奴らと遊びに行っている間に。
ホーリーチェリーも、何もかもどうでも良かった。
それよりも前に、俺は俺が一番大切な家族を失っていた。
どこかで……、世界に大変なことが起こっていることも、痛みを抱えた人がたくさんいることも分かっていた。
けど、俺は俺の痛みで精一杯だった。
多くの人が、遊んでいる間に失ったってわけじゃないだろう……
そう思っていた。




