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「上のお姉ちゃん、みっちゃん、シュウジ、おはよー」
玄関のドアが開いた。
雨、みたいな優しい声。
「お茶碗……は、俺が割っちゃったんだっけな」
宗ちゃんは、緋色に塗られた綺麗なお箸を母の台所から持ってきて、綺麗な所作で卵焼きを食べた。
「うん、おいしいね」
懐かしい、柔らかい笑顔。
「みっちゃん、ご飯少しくれる?」
実華という名前に自分は足りていない。そんな話をした日から、宗ちゃんは何も言わずにアタシをみっちゃんと呼んだ。
「みっちゃん?おわっ!」
シュウジが宗ちゃんに飛び付いた。
母は、泣いていた。
楓が宗ちゃんの足元でゴロゴロ言っている。
アタシは……アタシは……。
「宗一郎君、来てくれてありがとう。お母さん、ミカ君、シュウジ君、雨沢宗一郎君だ」
宗ちゃん!……!
シュウジが叫んでいる。
アタシは宗ちゃんの顔を何度も見つめた。
変わってない。
背は伸びているけど、柔らかい笑顔のアタシたちのお兄ちゃんがそこに居た。
「……三島サブローさん、ディストレスってこれですよね」
宗ちゃんは急に鋭い眼でテレビを見つめた。
「そうだ、全生物の急所のプログラムを追加したから、 HyLAの円盤で倒せるはずだ……」
「苦戦、してますね」
画面に、前にアタシたちが倒した猿のミニみたいなやつらが円盤に向けて凄い勢いで石を投げていた。




