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「俺のゴーグルはさ、脳波に働きかけて、動体視力を上げるやつなんだ」
イヤリングをくれた時、宗ちゃんはそう言った。宗ちゃんは元々、目がいい。
その限界点を更に超えたとしたら……
「穏やかな世界だよ。俺にとってはね」
不敵に微笑う兄は、頼もしくも恐ろしくもある。
「アタシには……そんなのナイ」
自分の武器、なんてものは、まだ。
「そう?……付けてみなよ」
悪魔と契約を交わすみたいに心臓が跳ねる。
震えながらイヤリングを付けると、五感を突き抜けて、全てが急速に理解った。
白銀色の猫が、耳元で揺れる。
「宗ちゃん……」
帰り道、車が来ることが理解った。
2台……それから、鳥が……来る!
羽ばたきが上空を掠めていく——。
「全部、分かるだろ?みっちゃんなら」
世界の動きが、理解る……
恐怖に怯えるアタシの瞳を、兄は揶揄うように夕陽の中で見つめた。
「みっちゃんの察する力のリミッターを外してみたらさ……面白いと思わない?」
この鼓動は焦りなのか……アタシは無意識に震えていた。
でも……でもこの力があれば……
「20秒後、後ろ。40秒後、上空に警戒」
「オッケェ実華!!!」
興に乗ったシュウジとジュンの瞳の先で、バーチャルエネミーが、薄明の光の中に散っていく。
「……なんか……」
「姉?」
突然手にした力が、怖くもある。
「どうした?ほっしー」
でもアタシは……もう誰にも負けない。




