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「生徒たちをありがとう」
薄暗いジオラマルーム。悲しいくらいに青いブルーホールだけが、あの悲劇の深淵を物語っている。
あの頃を思い出す。
拓海に初めて会った時、こいつはこんな風に一人で、消えてしまった大世界の人工島を見つめていた。
「指揮したのは雨沢だ」
仁花の最愛の男——俺の親友であり、罪を背負う共犯者——。
「室内でも外さないのか」
仁花に貰ったサングラスを俺は外したことが無い。
「……羨ましい?」
「……ああ」
拓海がこんな風に素直な時は、落ち込んでいる時だ。
「……あげないけどね」
「……俺には似合わない」
仁花が俺のためにオーダーメイドしたサングラス。特別な関係だったとはいえ、お前に似合ってたまるかという気持ちになるのは我ながら大人気ないが、姉弟は案外そういうものじゃないだろうか。
「三島、俺を恨んでいるのか」
「俺が?なんでだよ」
仁花は拓海とのことがあっても無くても、自分の役割を捨てるような姉では無い。
そればかりか、仮に拓海が事前に仁花を俺のところに逃がそうとしたら……仁花が拓海を恨んだと思う。
「巻き込み続けるのか」
「人聞きが悪いな。彼らの為でもある」
「三島、お前は全ての選択肢を伝えてはいない。今からでも……」
「拓海、すべてを伝えることだけが信頼じゃないだろう?俺たちが諦めるっていうのか」
……この場所で生きていくということを——




