259
彼女は戯れだったに違いない。
愛される要素が無い。
それでも、その笑顔を糧にしていた。
「ドクター篠坂、全て調べ終わりました……あー!やっと終わった!!!」
「……素が出てるぞ」
「……アラ」
咳払いをして、研究室のIOPジオラマルームのicomを誰よりも迅速に繰り、三島仁花はいくつものモニターを変わるがわる見つめた。
「IOP本島のこのおかしな磁場……ここ数日で更におかしな流れになって来てるわ」
「そのためのブリリア・オブ・ノアだ」
「大世界の人工島住人のもしもの場合の避難、隕石の迎撃、磁場の暴走の防壁、及び、最悪の場合、ホーリーチェリーの殲滅……水素動力による、夢の船ってところね」
「一課、二課、三課の技術の粋を合わせた惑星守護飛行艦だ」
「だからこそ!二課で作った副艦は母艦と同じ機能でなければね」
ジオラマルームには、約1/10000スケールの大世界の人工島ジオラマがある。高い山も、谷も、美しい都市も、全てがここに在る。
「母艦とのドッキングは試乗も含めて、月面コロニーで行われる」
「ハイハイ、最年少艦長殿。心配してないわよ。実験は全て成功だもの」
帰って来たら……。
彼女の胸に光る水色のペンダントが、消えてはいないだろうか。
「拓海、……いってらっしゃい!」




