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春の日や 水さえあれば 暮残り
……誰もアタシに、何も言わなかった。
母も責めなかったし、同級生たちも。
春——……
HyLabに入所したアタシは、言語学専攻・和歌の授業で、自分の好きな春の歌を選んでいた。
隣の机から、メモが回ってくる。
——スズメの子、そこのけそこのけお馬がとおる
どこかで見たことのあるような馬のイラストに吹き出しそうになりながら、アタシは宗ちゃんを横目で見た。
小声で宗ちゃんが呟く。
「(みっちゃん、一茶好きなんでしょ?)」
大学の卒業資格を取り、HyLAに就職した筈の宗ちゃんは、情報工学を修めただけで、まだまだ学ぶことはあるからね!本当なら素晴らしき学生生活があった筈だしさ。……と、飄々と言って、今隣の席にいる。
クラスは6人。
リイヤ・キュロス(16)
レイチェル・グレイ(15)
廊下側の一番前には、銀色のロングヘアー……相良純之助(14)……ジュンがいた。
HyLab搭乗者クラスには一応黒の詰襟と黒の古風なセーラー服の制服がある……が、ジュンは魔王風のスタイルを貫いていた。
「先生、決めました」
逆隣の糸生桃菜(12)
古代のアニメから飛び出してきたような……確か、昭和っていう時代。セーラー服の、凛とした黒い瞳のマニッシュショートの少女……
前髪を留めた猫のピンがキラリと光った。
(*小林一茶の春の句です)




