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「ほっしー!どうした!?」
コックピットに衝撃が走った。
万里の長城を、近所の塀を歩くみたいに巨大な銀色の猫が走る……——違う、あれは獰猛な白虎だ。
やつの凶暴な爪が、再びハイドロレイダーを襲う。
「ご、ごめん!」
アタシははっとして、操縦管を握り直して、爪を躱すことに集中する。
万里の長城の遥か向こう、美しい巨大な桃の木が、桃源郷のように、燦然と輝いている。美しい桃の蕾……それに触れたら何かが変わるだろうか。
でもアタシたちは、白虎の守る長く巨大な塀を、超えることができない。
余計なことを——考えている余裕は無い。
でもアタシは、サブローが言ったことを記憶の隅に追いやることが出来ないでいた。
白虎の鋭い爪は、まっすぐにハイドロレイダーを狙う。
「ディストレスは、君たちを認識している。個別の存在としてね」
ギリギリで爪を躱すことが出来た。けれども爪は何度も、的確にアタシたちを追い詰める。
「ショーコ君が標的になったのは、偶然じゃ無いことが分かった」
IOP創設の関係者にまつわる土地を次々に狙う暴走するAIdたち……
「「「バーキングアロー!!!」」」
(……速いっ!!)
ホーリーチェリーの撃破に初めて成功したHyLA……
あの日、アタシはサブローに訊いた。
「ショーコが狙われたのは、アタシの所為……なんですか?」




