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楓のいない、不安な夜が明けた。
例の、シュウジの考えたバーキングアローの顕現口上を睡眠学習のように聞いているうちに、アタシはいつしか眠っていたようだ。
地下基地の中に、偽物の太陽が昇る。
優しいお味噌汁の匂い。
「楓!!!」
無事に一晩で解放された楓は、サブローのキャリーから出て来てアタシの腕の中に帰ってきた。
見慣れない碧い首輪をしている。
「AIdの反応を消す加工をしているから外さないように。念のため、地下基地から出さないようにしてほしい」
サブローはそう言った。
アタシはしっかりと楓を抱きしめた。
「で、なんで一緒に朝ご飯を食べてるんですか?しかも、食事中もサングラス……」
当然のように食卓を囲むサブロー。
アッシュグレーに染めらた、よく見るとパーマがかった今風の髪型から見て、思ったより若いのかもしれないけれど、旧式なサングラスのせいでオジサンにも見える。
エリア関東の警察の人が着ているみたいな、白いサファリジャケットみたいな服を着て、下も白だから黒いサングラスがいやに浮いて見える。
「目がちょっと弱くてね。気にしないでくれたまえ」
サブローはアタシの卵焼きをどんどん減らしていく。ちょっと!
「サブローさん、僕考えました。ハイドロ・ライト・エージェンシー。HyLAなんてどうですか!?」
サングラスの奥のサブローの目が輝いた気がした。




