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久しぶりに鏡をちゃんと見る。
グレーのワンピースを着たアタシは、少し上等な感じに見える。
由子さんが作ってくれた、銀のバラのブローチが、胸の真ん中でキラキラと光る。
「ミカ、準備出来た?」
母も今日はしゃんとしていた。
テニスプレーヤーのようなスラッとしたスタイルに、グレージュのパンツスーツがよく似合ってる。
「うん」
髪をきゅ、とガラスビーズと銀の鈴が付いた飾りゴムでおさげにして(ショーコと色違いのやつっ)
母の前で回って見せた。
「いいじゃん!コーヒー入れたよ。シュウジいないから味はいまいちかもだけどさ〜」
「母のも旨いよ」
母のコーヒーは、少し大人の味。
今日にふさわしい味だった。
「……ちょっと早くし過ぎたね、準備。ははっ」
「備えあれば憂いなし!」
アタシはコーヒーを啜りながら、TVのリモコンをONにした。
陽だまりにいる楓みたいな色の、メタルシルバーのハイドロレイダーが、透き通るハワイの海の上を駆けていた。
あれには、シュウジと宗ちゃん、ジュンが乗っている。
迫り来るシーサーペントが、次々と薄明光線の中に消えていく。
やがて、色とりどりの巨大な珊瑚が今にも口を開けそうな青い世界に、泡のような碧い気泡が、宝石みたいに積み重なっていく。
(珊瑚って……動物じゃないのかな……)
なんてことも思いつつ、美しい巨大なカラフルな命の連なり。あれをシュウジはこう言った。
あれは、ホーリーコーラルリーフだ。




