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「ははっ、……じゃないんだけど…………」
宗ちゃんは二つ並んだライティングデスクの上にびっしり並べられたぬいぐるみを輪ゴムで狙った。
「ちょっ!やめてよ!楓が輪ゴム食べちゃうじゃん」
「楓には輪ゴム食べちゃダメって教えたから大丈夫だよ」
楓は落ちてきた猫のぬいぐるみに少し戯れてから、アタシのところに持って来た。
「お疲れ様、だって」
アタシは猫のぬいぐるみを撫でる。
……昔、シュウジと宗ちゃんがゲームセンターで取ったやつだ。
長い間置かれていたぬいぐるみは、くすんで埃っぽかったけど……可愛かった。
「みっちゃん」
薄暗い6畳の和室は、母の温もりも、シュウジの寝顔も、何だか久しぶりな気がする兄の楽しそうな表情も感じて、体は痛いけど穏やかな気持ちだ。
「辞める?」
豆電球の6畳の和室で、宗ちゃんは次のぬいぐるみを狙っている。
「痛っ」
ぽこん、とペガサスのぬいぐるみが落ちてくる。結構重量があるのに、よく落とせたもんだ。
「どんなものにでも、ウィークポイントがあるのさ、狙うべき点がね。よっ」
ぽこん、とキグナスのぬいぐるみが落ちてきて、楓が無慈悲に首を狙う。
「こらこら、可哀想でしょ」
ぬいぐるみと交換に喉を撫でてやるとゴロゴロ鳴いた。
アタシは……ショーコを助けられたと言うのだろうか。
いつも迷惑をかけてばかりで……
「ショーコは……無事だったんだよね」
「うん。今は卒業式の準備してるんじゃないかな。明日のね」




