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「居た……」
いや、まだ分からない。
けど、最後の段を登り切って、木々に囲まれた石の坂道を登った先に、桜が舞っていた。
ピンク色の、ヤマザクラ。
その更に向こうの、広場の向こうの……展望台がある筈の場所に……ショーコの家が聳えている。
グリーンの扉、グリーンの屋根の向こうに見える富士山が、舞い散る桜に彩られて、春みたいだ。
この場所を、アタシは懐かしい記憶と共に、覚えていた。
辛かった山登り。
新任の綾野先生の励まし。
交換しながら皆んなで食べたお菓子。
母が作ったお弁当。
学校行事だからって、何で山になんか登らなければいけないのか……。
そう思ったけれど、頂上から見た緑と、雄大な富士山は、アタシの未来をときめかせた。
一人では、幼いアタシはきっと登れなかった。
皆んなが居たから。
新しい春にはもう、別の生活が始まるけれど……。
「なんか……そんな場合じゃないケド、綺麗だね」
幸子のツインテールが波の様に花びらを滑らせていく。
「うん」
ショーコを迎えに行こう。
たぶん、これがアタシたちの最後の遠足になるとしても。
「ミカ?」
卒業、したくない……
小さくそう願っても、不確かな未来は訪れる。
「……何でもない。行こう!」
せめて祈り続ける。
幸せであるように。




