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「温かいまどろみとー 沢山の学びー」
「楽しくも辛くー けれど」
「幻想のようなー日々 ルルル」
「忘れられない いーたみ」
「消えゆく悲しみー ルルル」
「悔しくも嬉しー 夢の」
「星のかがーやき ラララ」
ピッと笛の音が鳴って、ハーモニーが止んだ。
「ちょっと男子ー、声が聴こえないんだけどー?」
なんて台詞を言うのは、アタシたちのクラスには綾野先生しかいない。
いかにも子どもが言いそうな言い方に、思わずクスクスと笑ってしまう。
綾野先生の専門は体育だ。
けれど、卒業式のクラス唱歌は、各クラス、担任を指揮者に保護者、在校生、お世話になった教職員の方々、地域の方々へ向けて心を込めて歌うことになっている。
「だーいじょうぶだって、先生!本番はちゃんと歌うからさっ」
「皆んな結構声いいんだからさ、本番は頼んだぜ?」
綾野先生は慣れない指揮棒を翳し、その周りで男子たちが踊り始める。
アタシたちはその様子をクスクスと見つめる。
……こんな風景も、あともう少しだ。
「男子も綾野先生も、寂しいのかもね」
ショーコがぽつりと言った。
風が時折少し、冷たくて、花の蕾が膨らみ始めた季節。
もうすぐ春。
もうすぐ、暖かくなる。
未来は楽しみ。
だけど否応なく訪れる別れに、アタシたちは一瞬一瞬を刻んで、反芻して、遺していくのだ。
そうして切なさを乗り越えて行く。
「でも、楽しそ」
「だね」
きっと変わらないのだ。
永遠に。
「続き、いつ歌うんだろ」
「ね!」




