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「ジュン君、こっち、こっち」
ミッションは終えた筈だ。
だが、終えたからこそ今宵、ミーティングがあるらしい。
HyLaのシャワールームから出た我を、シュウジが待っていた。
「この建物は得体が知れないな。だが、内装は思い描いていた特務機関そのものだ」
「分かる。だよね!」
心なしか、シュウジの声が弾んだ。
「この通路の突き当たりが、ワープエリアになってるんだ」
まるで宇宙船のような光る通路を抜けて畳3畳程度の袋小路にシュウジが手を翳す。
i-comのモニターが展開し、行き先のリストが列挙されていた。
「ミーティングエリア。搭乗が終わったら、これを選んでね」
薄く輝くグレーのワープタイルが現れる。
「これに乗るのか?」
「……ジュン君」
「何だ?」
「僕、知ってるよ。相良・スレート・アルトゥールさんのこと。ファンだったから」
シュウジの笑顔に偽りは無かった。
「そう……か」
「僕、格好いい人を調べるのが好きなんだ。アルトゥールさんって、見た目ももちろん格好いいけど……」
「我が似ていると言いたいのか?」
「……うーん。ジュン君はインテリジェンスな感じだから見た目は違うと思うけど……だから最初は気づかなかったけど、うん、目は似てるかも」
確かに、一般的なアンバーアイは、親譲りだ。
シュウジは日本古来の宝石みたいな黒い瞳で我を見上げた。
「鍛えてて格好良いし、進化して変わりゆく地形を観測しながら、遠隔撮影を使わずに、自分の足で、瞳で、難攻不落の世界の自然を探索し続けたことが凄いっていうか」
でも、それで最後のアタックで命を落とした。
「それでも……さ」
シュウジは雨沢に少し似ている。
相手の心の声の先が視えているみたいに。
「格好いい人って、夢中になれる何かを見つけられた人のことじゃないかな。アルトゥールさんの活躍を知って、人間の力は作られた自然に負けないって、感動したんだ」
シュウジと同じようには思えない。積年の澱は、なかなか流れない。
だがシュウジの瞳には偽りを感じなかった。
「……じゃあ、向こうで!」
シュウジを追い、ワープタイルを踏む。
TVでよく観る新宿の風景と、空き地とアパート。
シュウジを追い、小さなドアを開ける。
「おー、ジュン、お疲れー」
控え室のような和室に、ほっしーの笑顔があった。
終わりの見えない悪夢と、日本茶の暖かい匂いが混ざる。
我は思いがけず、父の笑顔を思い出した。




