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「雨沢……宗一郎…………」
我は、この男を知っていた。
いや、この島国で、雨沢宗一郎の名を知らない者はいない。
天才中学生、未来科学研究者の息子——悲劇の貴公子。
こんなやつが、我と似てるはず無かった。
オムニバスシネマの記録映像の中で、誰よりも輝き、両親から愛情の籠った笑顔を向けられている……。美しい少年。確か今は高校生の筈だが、その存在はIOP消失後、どのメディアからも消えてしまった。
「恨んだよ、俺も」
流れる涙を気にもせずに、雨沢は語った。
「独りにされて……狂ったっていい。寝たきりだっていい。……一緒に暮らしたかった。俺を愛してたのなら、なんで……なんだよ……」
……何故、父は山に消えたのか。
何故母さんは俺を見ない?
愛していたのなら……
「自分だけが……辛いなんて思うなよ」
確かにそうかもしれない。
我よりも辛い人間なんて、きっと沢山いる。
理不尽な力に愛する家族を失って、雨沢のほうが辛いのかもしれない。だけど……
「お前が……」
静かに涙を流す美しい黒い瞳を見上げる。
「俺の辛さを……周りが決めるな!!!」
「…………確かにね。……でも」
黒い瞳が真っ直ぐに俺を見つめる。
月の光、神々しさを纏って。
「楽しかっただろ?辛いけど、寂しくて……死にそうになるけど……」
腕の拘束を解かれ、代わりにライズブレスが差し出された。
自分の涙で雨沢の姿が月光の中に歪んでいく。
歪なその姿は、歪んだ鏡のようだった。
「生きてみないか?……純之助」




