薄明のハイドロレイダー

白日のショコラ……——昇れ、きりなしの悪夢

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　鷺沼《さぎぬま》は、我《われ》が魔王を名乗った理由も聞かなかったし、他言もしなかった。

　その夏、ラジオ体操最終日には、ほとんどの児童が菓子袋目当てに集まってきていたけど、鷺沼《さぎぬま》を緩衝材にすると、気力のない我《われ》も、ほとんどのやつと普通に話せた。

　新学期も同じ。

　否応《いやおう》なく巡る秋、冬——。

　我《われ》は鷺沼《さぎぬま》の近くで過ごして、馬鹿馬鹿しい学校生活をやり過ごした。

　それを鷺沼《さぎぬま》は咎《とが》めなかった。

　我は鷺沼《さぎぬま》の空気にくらいは為《な》れているのだろうか……それを聞けぬまま、次の春、鷺沼《さぎぬま》は転校し、さらに次の春——IOP消失に巻き込まれてしまったと聞いた。

　我《われ》に悲しむ資格があるとは思えない。

　思い出す資格も。

　冷凍庫の隅《すみ》に隠したどろどろのマカダミアチョコレートは、歪《いびつ》に溶けたのがガチガチに固まって、我《われ》の口に入る前に、母さんに見つかりゴミ箱の屑となった。

　別に、どうしても食べたかったわけじゃない。

　だけど、心を凍らせるのには充分だった。

　——それでも。

「相良《さがら》ぁ！何でだよ？」

　記憶の中の鷺沼《さぎぬま》はいつだって、呆れたように、楽しげに笑っている——。

「鷺沼《さぎぬま》が……生きれば良かったんだ。あいつには家族も……友だちも居た」

　記憶星の映像は悲しいくらいに鮮やかで、そこに鷺沼《さぎぬま》が居るみたいだった。

「君にも居るだろう？家族も、……仲間も」

　緋色《ひいろ》の男は静かに、鷺沼《さぎぬま》の記憶星を視《み》て居た。