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「ヒュッ、ハァ……ハァ……ゼイ……」
……階段とか、修行かよ……。エレベーターやワープはないのだろうか。
もう30分も、この仄暗い階段を登っている。
先立って歩く赤ゴーグル男は、軽やかな足取りだ。
ここがどこだか分からない。
付いてくるように言われるまま、この長い螺旋階段の麓に辿り着いて、言われるまま付いていく。
得体の知れないこの男は、逆らったらヤバい雰囲気を醸し出していて、我は長いモノには逡巡なく巻かれる主義だ。
それに、先の見えない仄暗い塔。それが我の人生かもしれなかった。
「もうすぐだ」
この男、さっきもそう言った。
でも得体の知れないやつには口答えしない。それが賢いやり方だ。ずっとそうだった。
「君は……喋らないね」
さっきのツインテールの話しやすそうな、ややツリ目の女子を思い出す。いや、そうじゃない。この記憶は渡辺だ。
同小の女子。
我が唯一友だちだったと言えるやつ。小5になる前に、転校して行った。
大世界の人工島に。
小5の春を最後に、我は孤独だ。
この憎らしい世界に復讐してやるという思いを馳せては、もう終わらせてしまいたいと願っていた。
だが、エリア栃木に根付いたホーリーチェリーが咲くことは無かった。
塔の先に待つのは、新しい絶望だ。




