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「そんなわけで……」
サングラスの男はお茶を淹れながら言った。
小さな白い部屋。
だけど、調度品はすべて、高そうなものだった。
壁一面に映し出された大型ホログラムビジョンには、大猿が倒れた場所の跡が映し出されていたけれど、壊された建物も、木も、全てが少しずつ形を復元していた。
人間以外のものは、全て管理されたAIdなのだから。
アタシは楓を抱きしめた。
どこも、怪我はないみたいだった。
三つ並んだ椅子の真ん中で、母はアタシとシュウジの背中をさすっていた。
「ミカ君、シュウジ君、君たちは選ばれたんだよ。対、AIdの対抗勢力として」
アタシはため息をついた。
確かに、弟ならやれるかもしれない。そう思った。でも……。
「AIdはAIdを呼ぶ。それは知っているね?」
「だから、なんですか?」
「すまないが理論はまだわかっていないが、ディストレス化したAIdが、生体AId、つまり各地のペットAIdを集めている」
……確かに、大猿は楓を狙っていた。
「残酷だが、処分か、搭乗か……君はどちらを選ぶ?」
「……処分……」
なんてできるわけない。
一択の質問。
「搭乗すれば、楓と暮らせるんですか」
「善処しよう。それに少し安心してほしいのだが、えっと、シュウジ君がバーキングアローと名付けた技術は、警察のパトカーにも搭載され始めている。小規模なものだけどね。君たちのファーストミッションは、30日後のホーリーチェリーの開花の阻止。ホーリーチェリーの破壊だ」
「わかりました、乗ります」
大型ホログラムビジョンの右上に今の時刻、21:19分。
右下には……
30日
滅亡までの日数が変わらずに映っていた。
「僕も乗ります」
シュウジの返事を聞いて、母はアタシたちの手をぎゅっと握った。
「すまない。ではこれから訓練についての説明と宿舎の説明を……」
「いや、アタシたち明日学校があるんで」
「ん!?」
「いつも21時には寝てるんで!」
ちゃんと寝なくちゃならない。
アタシもシュウジも楓も母も。
今頃には、アタシたちのアパートも復元されている頃だ。
「確かに眠いんで……すみません」
弟は笑顔で、パトカーのワープ装置を操作し始めた。
「帰ろ!母」
パトカーに急いで乗り込み、エリア新宿・セクション新大久保の木造風のアパートの前にワープした。
いつもの夜空が広がって、いつもの新宿の匂いがした。
アタシたちは順番にお風呂に入って、麦茶を飲んでぐっすり寝たのだった。




