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AIdは進化を続ける……。
亜空間を切り裂く個体が、次々に生まれている。
画面の中のスターノエルレイダーの胸は、小さな雲から放たれたいくつもの閃光で貫かれている。
その度に、レイダーの手足がビクビクと跳ねる。
アタシの手は無意識に麦茶のコップを口に運ぶ。
喉を滑る冷たさがいやにはっきりして、感情を凍らせていく。
「……大丈夫?」
宗ちゃんの手が、視界を遮る。
アタシはゆっくりと宗ちゃんの手を降ろしてまた画面を見つめた。
「うん」
知る必要がある。起こったことを。
「宗ちゃん。あの閃光。あの圧。明らかにコックピットに干渉してた。……痛かった、よね。サブローはあの雲みたいなAIdにやられちゃったんじゃないの?」
知りたくない。
こんな急にまた、失いたくない。
アタシは宗ちゃんの小さい部屋に展開されたいくつものモニターを凝視した。
パチ、とペンダントライトの灯りが点いた。
少し黄色がかった、古びたシーリングライトの灯りが、深夜の和室を明るくした。
「電気、暗かったよね。シュウジに寝るって言っちゃったからサ。下の階明るいとバレちゃうじゃない?」
壁に掛けられたいくつものブリキのプランターから、白い、小さな花が顔を出していた。
「な……にこれ」
「カモミール。壁面の温度をちょっと温かくしててね。結構育つんだよ」
切羽詰まった気持ちが解けて、少しいい匂いがする気がした。
「部屋の中で?」
「悪くないだろ?花がある生活もさ」
宗ちゃんはホログラムキーボードを操作して、モニターの中のスターノエルレイダーを拡大した。
「生きてるよ、サブローさんは」
画面の中のスターノエルレイダーが、解析レーダーを浴びて静かに点滅をする。
「もし、コックピットが損傷して中身が外部に露出していたら、生体反応……最悪の場合はただの有機反応があるはずだけど、ないだろ?」
「うん……」
「つまり、スターノエルレイダーの亜空間は無事ってことだ」




