真っ白な少女と雪玉クッキー
臨時のお菓子係だったはずが、専属のお菓子係の話になっている。
頑張ってつくったシェリアとしては、気に入ってもらえたのはとても嬉しいけれど、それは難しい。
「喜んでもらえたのは嬉しいけれど、専属のお菓子係にはなれないわ。家に帰らないといけないの」
屋敷の妖精との約束したのだ。無事に帰って、菓子をつくると。
それに、クラリスやエレンも心配するかもしれない。
アンディは、あまり関わりがなかったし、心配しないかもしれないが。
「なら、ここを家にすればいいのだ!」
「へやなら、いっぱいある!」
「お菓子たべほうだい!」
「残念だけど……」
なんとも無茶苦茶な妖精に、シェリアは断りの言葉を言いかけた、けれど。
いつのまにかシェリアの目の前に集まっていた妖精の瞳が期待に満ちていて、それでいて懇願するようで、そこから先の言葉を紡げなくなってしまった。
断れない。だからといって、専属お菓子係を受けることも出来ないけれど。
互いの意見が平行し、膠着状態のシェリアと妖精の間に、僅かな沈黙が訪れる。
それを破ったのは、少年だった。
「残念だけど、彼女は、この丘でお菓子をつくり続けることはできないんだ」
少年は、宴の分とは別に、シェリアが少年用にと用意したプロフィットロールの塔がのった皿を両手で抱えている。
「むむ。“おまじない”の気配がいっぱいの人間は、めずらしい」
「ぜひとも、受けて欲しいところ」
「まいにち、お菓子食べほうだい!」
どうやら、シェリアが屋敷の妖精にしてもらった“おまじない”が、無害である保証のようなものになってしまっているようだ。
少年が参戦したものの、シェリアと妖精の意見は変わらず平行したまま。
どうしたものかと、赤褐色の妖精の集団から視線をずらしたシェリアの瞳に、食いつくさんと言わんばかりにひたすらとプロフィットロールの塔を食べ続けている真っ白な髪の小さな少女が映る。
目を離せずにいるシェリアの様子に気付いた少年と赤褐色の妖精もまた、その小さな少女に視線を移す。
少女は厨房内の注目を一身に集めてしまった。
持ち帰る為のプロフィットロールをこっそり吟味している道妖精の少女を覗いて。
羽根をひらひらとさせながら、少女は、両手でプロフィットロールを抱え、栗鼠のように噛りついている。
だが、その速度がおかしい。
時計の秒針が三回刻む毎に一個、少女の傍のプロフィットロールがなくなっているのだ。
このままでは、少女によって、シェリアがつくった塔はなくなってしまうかもしれない。
つくるのは大変なのに、消えるのは一瞬である。
「──きみは、どこからきたのだ?」
赤褐色の髪を持つ妖精のひとりが問いかけると、少女は、すっと人差し指でどこか遠くを指して、微笑んで言った。
「あっち」
肩までゆるりとのびた真っ白な髪を、雪結晶のように煌々と輝かせて。
「あっち?」
「そう。雪がいっぱい降ってるの」
赤褐色の妖精のひとりが訊くと、少女が無邪気に笑った。
「風の子とかがね、おかしをいっぱいたべれるって教えてくれて、みんなで来たの」
そう話しながら、少女は積み重なった塔からまたひとつプロフィットロールを手にすると、ちまちまと噛りつきはじめた。
夏至の近いこの時期に、この国では雪は降らない。
恐らく隣の国から、遠路はるばるやってきたのだろう。
「きてよかった」
手にしていたものを食べ終わった少女が嬉しそうに、また次のプロフィットロールに手を伸ばした瞬間──
「まつのだ!それは宴にだすのだ!」
赤褐色の妖精のひとりが叫んだ。
「……うたげ?」
「そうなのだ。いま、一年に一度のげしさいのまえだおし中なのだ。それは、だいじな料理なのだ」
きょとんとした少女に、赤褐色の妖精のひとりが告げる。
「きみがこのまま食べ続けると、宴にだすものがなくなってしまう気がするのだ」
「……そうなんだ。あまくて、おいしかったのに」
少女はしゅんとして、名残り惜しそうにプロフィットロールの塔を見つめる。そのまま、じっと見つめたままの少女は、このままでは食べるのを再開してしまいそうだ。
なんとか、それを阻止したい赤褐色の妖精のひとりは、少女の気を逸らそうと問いかけた。
「みんなで来たと言っていたが……」
「そうなの! まるくて真っ白いのがならんでて、雪の玉みたいだねって。でも、めのまえでなくなっちゃって、もしかしてまだあるかなって、丘にきたの」
「……それは、たぶん参加妖精のじさんした手みやげなのだ。ここにはないのだ」
「そうなんだ……」
お目当てのものがここにはないらしいと知り、少女は肩を落とした。
その姿に、一同同情していたせいだろうか。
再びプロフィットロールの塔に手をのばしたことへの反応が遅れ、みすみす食べられてしまった。
「まつのだ! だから、それは食べてはだめなのだ!」
「だめ……なの……?」
「うっ……、だ、だめなのだ」
慌てて止めに入ったものの、しょんぼりと落ち込んだ少女に問いかけられ、赤褐色の妖精のひとりはうろたえた。
あまりにも落ち込んでいる少女に、追い討ちをかけるようで、いたたまれなくなったのだ。
「そうなのだ!つくってもらえばいいのだ!」
ぱっと名案を思い付いたかのような表情で、赤褐色の妖精のひとりは、シェリアの方を見た。
「うむ。へった分のあなうめもできる!」
「せんぞくは、あきらめる」
「ぜひとも、解決してほしい」
期待に満ちた目を複数向けられたシェリアは、こくりと頷いた。
少女の望む菓子がシェリアの知っているものかは分からないが、ここでつくれるのはシェリアしかいないだろう。
こうして、シェリアは、再びお菓子をつくり始めることになった。




